名古屋市緑区の日常は江戸時代

「これはいける!」


一口食べたらその干し柿に魅了されてしまった。十分すぎるほどの甘みが口の中いっぱいに広がり、何とも香りがいい。表現するとメロンのような。柿がメロンのような香りがするわけがないと思われるだろうが、果物の持つフルーティーな香りが甘みと一緒になって飛び込んでくるのだ。

そして二口目。今度は柿本来の味と香りがふわっと広がる。大ぶりな渋柿を丁寧に干した柿は、真っ白に粉を吹き、ふっくらとした果肉がある。上品な出来栄えであった。


白い粉がまんべんなくついていて甘みたっぷり

この干し柿が食べられたのは、ゲストハウスの掃除をしていたことがきっかけ。久しぶりの予約が入ったので、準備をしていたところに


「おい、どうだ? お客は居らんか?」と話しかけられた。


声の主は、お隣さん。いつもお世話になっている旦那さんが、緊急事態宣言でゲストハウスの経営を心配して声をかけてきた。


「いや、どうもこうもありませんよ。この状況ではさっぱりですわ」


ここまでくると我慢比べと決め込んで、耐えられるまで耐えるつもりだと伝えると、


「こればっかりはどうしようもないな」


自分でも事業をされてきたので、商売の浮き沈みは痛いほどわかっているぞ! と目の奥で語り掛けながら、数回うなずき押し黙った。


「おー、そういえばハクビシンを捕まえたぞ!」


唐突に話題が変わった。

ここは名古屋市内。ハクビシン?? どこかで聞いたぞ…… そうだ! SARSの原因となった野生動物じゃなかったっけ? え? なんで、ここに居るの??


有松は、名古屋市緑区に位置しており、周囲は一般的な住宅街。しかし日本遺産に指定されている東海道沿いの一角だけが、取り残されたように昔のままなのだ。有松絞りの商家が並び江戸時代さながらの風景がある。大きな邸宅が多く、庭に木があったり、林になっている場所も点在して、先日も斜め向かいの邸宅の庭の草を刈ったら、タヌキが出たと騒ぎになっていた。

そんな場所だけに、少々の生き物の話では驚くこともなくなったが、ハクビシンがでるとは……


この町なみのどこかにハクビシンが……!

「温州ミカンを食い散らかしてどうにもならんから、罠かけて捕まえた! 見てみるか」と庭へ入ってくるように手招きしている。


捉えたハクビシンがいるのかと思い、引け引けで入っていくとハクビシンは既に始末したそうである。まだ仲間(家族?)がいるので、罠にみかんを仕掛けてかかるのを待っているのだとか。


お隣のお宅には、柿やみかんの樹そして畑もあり、名古屋市内とは到底思えない。かろうじて北側に学校の体育館が立っているので、田舎のばぁちゃん家ではないことがわかるくらいだ。綺麗に剪定されたみかんの樹に一つだけ残った実を指さし、


「みかんの皮だけ捨てて、全部食い散らかしやがった」


憤慨冷めやらぬ様子であったが、ふと私のことを心配していたことを思い出したように、


「干し柿食うか?」


とまた唐突に聞いてきた。以前もらったことのある渋柿を干し柿にしていることは知っていた。それをいただけるとあって2度うなずくと、冷蔵庫から出してくれたのが、前述の干し柿である。

作り方のレクチャーもついてきた。干す前に10秒ほど熱湯にさらすと腐りにくいとか、乾燥途中で柿をもむと中から糖分がジワリ出てきて、きれいに白く粉を吹くことだとか、暖冬が続いて腐ってしまったこともあったので、冬は寒くないといけないとか。


「感想を聞かせてくれよ。お世辞はいらんからな」とかなりの自信作をうかがわせる一言を添えて、手渡してくれた。


お隣さんからは、夏にはキュウリやナスなどを、冬には市田柿などをいただいたことがある。「農学部出身だが、農業経験はないから我流だぞ」という割には、どれもしっかりとした出来栄えだった。中でもこの干し柿は格別なもので、「おいしゅうございました」とつぶやくのだった。


ゲストハウスに居ると「もらってくれないか」と声をかけられることが多い。うちには大根とカブがごろごろしている。近所からいただいたものだ。ご近所も畑をしていて「食べきれないから食べてほしい」と言って持ってきてくれた。

女将はいただいたものを干したり発酵させて保存できるようにしている。大根はたくあんにし、ハッサクはジュースにした。


有松は手作業の町。400年前に大分の職人から製法を教わって始まった絞り染めの町だ。栄枯盛衰はあったが、人々はそれを毎日の生活としてつむいできた。その情緒あふれる町並みに感化されて、手作業をしたくなるのかもしれない。


私も柵を作ったり、机を作ったりしているが、じつに手作りは、始めるまでが面倒である。重い腰をぐいっと上げて「しょうがないやるか」と言いながら始めている。

しかし、始めるとノリノリになってきて、できた時には「できたー!」という感覚がわいてくる。あまめに自己採点して80点も取れれば喜びもひとしお。

周りの人からもらったから、そこに実がなったからといったことをきっかけに手作りを始めると共感が生まれてくるから不思議。


日々の営みは、単調で面倒なことが多いですが、少し視線をずらすと小さな喜びが見つかります。できすぎちゃったからおすそ分けしたり、手作りを楽しんだり。江戸時代の人の営みが見えてくるようです。こうして循環していたのでしょうね。

経営は火の車ですが、干し柿を楽しめるゆっくりとした時間を味わえるように、心のゆとりだけはなくさないように過ごしています。(ハクビシンはどうなるのだろう?)


ゲストハウスMADO

大島

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