炎が本能を呼び覚ます

「熱っ! めちゃ、温度上がってるじゃない」

小さなテントの中は、70~80度はあるかと思われる。


4人ほど入れるテントの中に薪ストーブが置いてあり、煙突が突き出ている。人工的なグリーン色は、南と中央、両アルプスが望めるその場所の風景とは質的に違っており、大自然の中にある草間彌生のオブジェのよう。どうも個人的には違和感を覚えてしまう。


前方には南アルプス、後方には中央アルプスが間近に見えます!

この場所は、長野県伊那郡にある千人塚公園。今回はGlocal Nagoya Backpackers Hostelのいっちゃんこと市野さん。南知多ゲストハウスほどほどのこっすーこと小杉さん、kawa DOCK hostel colivingのタイシくんこと各務さん、紀伊勝浦からはWhy Kumano, Hostel & Cafe Barのゴロさんこと後呂(うしろ)さん、我々ゲストハウスMADO夫婦そして主催してくれた旅行代理店のエリコさんの7名が、駒ケ根観光協会の案内で、焚火ツアーに来ているのだ。


焚火イベントの最初がテントサウナである。勢いよく薪が燃え上がっているストーブの上には、サウナストーンが敷き詰められている。桶とヒシャクが用意されており、中に入っている水を勢いよくサウナストーンにかけると……

「ジュー!」

「あぢー!!」となる。

「一気に蒸気が充満するよね! 乾燥したサウナより僕は、こっちの方がいいな」と言いながらどんどん水をかけるのは、いっちゃん。あっという間にテントの窓は曇って外が見えなくなってしまった。

近所の山で拾ってきたクロモジの枝が桶の中に入れてあり、水をかけるたびにテント中にアロマが広がって、熱いけれどもさわやかな心地よさがある。


薪が燃え上がり始めるとガンガン熱くなるのです!

愛知県の非常事態宣言が解かれて一週間、そして東北大震災から10年が経つ天気のいい日であった。

「少しゲストが戻ってきたね」

「そうだね。うちも今週は3組くらい予約が入ったよ」

第3波が来て以来、カラカラになっていたゲストハウスに久しぶりに予約が入っただけで、話題に花が咲いている。まるで冬眠から目覚めたモグラの井戸端会議だ。

汗が噴き出て耐え切れなくなると外に出て火照った体を冷やし、一息ついたらまたテントの中へ。1時間ほど楽しむことができた


駒ケ根と言えば、中央アルプス標高2500m以上の高地に広がる千畳敷カールが有名である。夏には高山植物が咲き誇り、冬には麓の駒ケ根高原でスキーができるオールシーズン楽しめる観光地なのだが、コロナ禍で様々な影響を受けているという。

そこで観光協会は、体験をメインにしたツアーを用意した。それが焚火ツアー。

テントサウナの脇では、焚火を囲んでのバーベキューの準備が着々と進んでいる。本日のメインイベントだ!


「これ欲しいよね。けどMADOの裏庭だと、煙で近所迷惑か…… いっちゃんちの庭ならいいかも?」

「う〜ん。けど高そうだよね」

直径120cmほどの大きなボール状の鉄なべの周りに、バーベキューの具材を焼くのに最適な鉄板が乗っている。鉄板の中心は空いていて、その部分に薪をくべて焚火ができる。目の前で燃え上がる炎を見ながら、鉄板バーベキューができるこの炉は、誰もが欲しくなる逸品である。


どうだ! このバーベキュー! 

あたりも薄暗くなり、炎を囲んで自己紹介となった。四徳温泉キャンプ場の経営者、伊那谷でゲストハウスを開業したかったがコロナで断念したシェアハウス経営者と観光協会の2名の方々が駒ケ根側から参加した。


炎を囲むと素直になれるためか、自己紹介は卒業文集のようだった。自然に10年前どこに居たかとの話題となり、それぞれが生い立ちや現在の立ち位置を語り始めた。

「世界を旅していると、僕のようにお金のない旅人でも長期滞在できる安宿があるんですよね。日本にはあまりなかったので、そんな若者でも気軽に宿泊できる宿が作りたくてホステルやってます」

「10年前のこの日はちょうどピースボードに乗っていて、アフリカ付近を航海中でした。乗船客の中には、下船して日本へ緊急帰国する人もいましたよ」

「いろいろな国の自然に触れて、今は山岳ガイドをするほど自然が好きになりました」

なるほど、さすがにゲストハウス関係者の人生は波乱に富んでいると感じながら聞き入っていた。


パチパチ! 焚火の炎の向こうに皆の顔がゆらゆら揺れながら見える。あたりは静まり返り寒さも厳しく深々としてきたが、炎が皆の心と身体を包み込んでいるかのようだった。

温かな炎に包まれて、ゆっくりと自分の来た道を振り返り、コロナ禍により、もがいている現在の位置を確かめるように語りかける自己紹介となった。


今宵の宿は、古民家をリノベした一棟貸し古民家宿 nagareさん。玄関を入ってすぐ目に入るのが、しつらえよく整ったキッチン。土間の戸を開けると部屋の中心にある大きな薪ストーブが目に飛び込んでくる。広々とした空間を炎がゆったりと包み込んでいた。

「これが、焚火ツアー最終地点での演出か!」と一同歓声を上げた。

20畳ほどある大空間にストーブの他に囲炉裏も用意されている。250cmx100cmほどの机の真ん中に長方形に作られたおしゃれな囲炉裏。その日はバーベキューで食事をしてきたので囲炉裏は利用しなかったが、ここでの食事もきっと素敵だろうと、たやすく想像できる豊かな空間であった。

その空間で、ゲストハウスオーナーだけとなりしっぽりと語り合うこととなった。


「何とかしなくては! と頭で考えても、なんとなくパワーが出ない」

「モラトリアム状態で、つるし上げられている気がしてならない」

など、コロナ禍で厳しい現状を皆で吐露しながら、ぼんやりと揺れる炎を眺めている。

炎を見ていると、結論も出ないし解決策もないのに、なんだか前に進める気がしてくるのはなぜだろう? 気の置けない仲間とここでしかできない食事と会話。それを大きく包み込む炎。会話は終わりなく続くようであった。


翌朝、みんなで朝食を作って食べた。美味しそうに炊き立てのご飯を頬張るその顔を見ていると、前に進む力が蘇っているようだった。

焚火ツアーと聞いて、あまりピンとこなかったが、仲間と体験してみると元気が湧いてきた。企画してくれた駒ケ根観光協会の皆さんに対して、

「元気が出ました! ゲストハウスオーナーは、皆前に進んでいきますよ!」とつぶやきながら、宿を後にするのであった。


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